高橋 弘 著 「素顔のモルモン教」


V モルモン内部の歴史論争−
ベンソン、マコンキー論文


  さてクインの論文はまだ続くし、論文の内容も精緻でこみ入ったものであるが、理解しやすいようにまとめてみた。ここまでの内容ですでに、モルモン教内部の歴史論争をある程度把握できたのではないかと思う。このような論争のさなかに、教会当局がどのような対応にでたかを、二人の指導者の講演から知ることができる。

 まず、エズラ・タフト・ベンソンである。モルモン教の教理が歴史とともに変容してきたという批判の書物が出版されたとき、ベンソンが、一九八〇年二月、BYUで講演した内容である。演題は「予言者に従うための十四の基本原則」(" Fourteen Fundamentals in Following the Prophets")である。この講演でベンソンがもっとも強調していることは、現在の預言者〔つまり大管長〕が最優先されるべきだという原則である。かりにジョセフ・スミスやブリガム・ヤングなどの、かつての預言者と今日の指導者との間に、何らかの齟齬や矛盾があるばあい、今日の指導者に従いなさいと勧めているのである。たとえば (1)預言者は、すべてのことにおいて神に代わって語る唯一の人である。(2) 活ける預言者は、スタンダード・ワークより〔つまり、聖書や『モルモン経』『教義と聖約』『高価な真珠』などより予言者が優先すること〕、優先される等々である(T「素顔のモルモン教」の、「2 カリスマ宗教」参照)。

 もう一つは使徒ブルース・マコンキーの "All are Alike unto God" という論文である。マコンキーはモルモン教の反黒人神学の旗手であり、神権を黒人に与えることに最後まで強く反対した人物である。このなかで、マコンキーは「私がかつて語ったことは忘れなさい。また大管長ブリガム・ヤングや、あるいは大管長ジョージ・キャノン、あるいは誰であれその人物が過去に語ったことで、しかも今日示されている啓示と矛盾することはすべて忘れなさい。われわれは限られた理解に立って語っていたのであり、その当時、いまわれわれに与えられている光と知恵はなかったのである」と主張している。このような主張によって、教会当局はモルモン教の過去を闇に葬り、またモルモン教の歴史研究は無意味であることを断言したのである。


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