高橋 弘 著 「素顔のモルモン教」


V モルモン内部の歴史論争−教会当局の歴史家批判−批判の具体的内容

その3・啓示の物理的環境について


 さきの批判と関連するもう一つの批判がある。それは、モルモン教会の歴史の発展とか啓示についてふれるときには、その背後にある状況とか環境については説明不要であるというベンソンの批判である。ベンソンは例をあげる。ジョセフ・スミスが受けた『知恵の言葉』にかんする啓示の背景には、一八三〇年代の禁酒運動の影響があるとする歴史家の説明とか、あるいは三種類の栄光にかんする啓示の背景には、当時、死後の生命についての同様な哲学者の議論があった、という歴史家の説明である。ベンソンは、こんなものは不要だというのである。

 クインの反論はこうである。一般の学術論文を書く際、ある人物の発明とか改革について述べるとき、そこにいたるまでの、おそらくその人物が意識していたに違いない重要な事実とか出来事について述べないなら、良くて勉強不足、悪ければ不誠実であるとの烙印を押されるのが落ちである。煙草とか酒、熱い飲み物を禁止するジョセフ・スミスの啓示について語るとき、当時、社会改革家や宗教的改革家が同じように酒や煙草、熱い飲み物などを控えるべきであると人々に勧めていたという事実を述べないなら、その歴史家の知識や動機の不純さを疑われるのは当然であり、そういう事態になれば結局、啓示に関する議論そのものさえ疑われてしまうだろう、とクインはいうのである。


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