高橋 弘 著 「素顔のモルモン教」


V モルモン内部の歴史論争−教会当局の歴史家批判−批判の具体的内容

その1・専門用語について


 教会当局の批判の一つは、モルモン教の歴史の発展やその特徴を述べるとき、学術的表現や専門用語を用いるべきではないという点である。たとえば「・・の真偽は疑わしい」とか「・・だと伝えられている」「実験的システム」「共同生活」「共同体的」などの表現や用語は用いるべきではない、その代わりとしてベンソンが勧めるのは、歴史家がたとえ学術論文を書く場合でも、モルモン教徒である以上、伝統的モルモンの用語・表現を用いるべきであるというのである。

 これにたいするクインの反論は、モルモン教の言葉の多くはかなり特殊な意味をもつもので、モルモン教徒でなければわからない。したがってモルモン教特有の宗教用語を用いるなら、その用語を説明するか、そうでなければ一般の人にもわかる言葉を探さなくてはならない〔モルモン特有の用語の一例をあげれば「イスラエル人」「ユダヤ人」とか「異邦人」である。モルモン教の信仰では、モルモン教徒こそ真の「イスラエル人」「ユダヤ人」であり、モルモン教徒以外は「異邦人」とよばれているのである、筆者注〕。モルモンの宣教師が海外にでかけるときには、一般の人々にもわかる言葉でコミュニケーションすることが賞賛され、モルモンの研究者が同じことをするとなぜ非難されるのか、と反論。

 もう一つの点、つまり「実験的・・」とか「共同体的」などの表現は使用すべきではないという点に関しては、これらの用語はすでにモルモン教の公的な出版物に掲載されてるではないか、と反論する。こうしてモルモン教の歴史を語る場合、一般的な学術的用語や表現が禁止される一方、かつて大管長会が公けにしていた表現でも禁止されるという、じつに厄介な立場にモルモン教の歴史家はたたされている、とクインは語る。     


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