高橋 弘 著 「素顔のモルモン教」


U モルモン教の歴史 − 歴史学にもとづくモルモン教の歴史 - 4 ミズーリー時代

ジョセフ・スミスとダナイト団


 「さてこの秘密裡の結託〔「ダナイト団」のこと。著者〕は、以前に示された啓示、とくに『モルモン経』の教えと相矛盾する。『モルモン経』には、神は秘密裡に事をなさらず、またこの秘密結社のようなものはすべて破壊されねばならない、と述べられているからである。多くの者がこの結社について反対した。しかし結社設立の決意は並々ならぬものであり、反対する者たちへの脅しも尋常なものではなかったため、反対する者たちも、このことについてあえて口を開く者はなかった・・」(31)

 ダナイト団は、モルモンの絶対的指導体制の確立のために、モルモン教会内部にひそかに設立された秘密結社・自警団である。ダナイト団は、リーダーにたいし絶対的服従を誓う一握りの腹心の部下からなる組織で、つねに特殊な任務が課せられた。またダナイト団はモルモン教徒を護るためなら、脅迫や略奪、殺人も辞さない集団であった。歴史家ジェントリーによれば、ミズーリー州でのダナイト団の活動にはいくつかの段階がある。初期の活動は、自警団からモルモン教徒を護ることが主な任務であったが、後期はすべてモルモン教徒に対立する敵の財産をことごとく略奪し、破壊し、焼き払うことが任務であった。ダナイト団の存在はモルモン教徒にも秘密にされていたが、その存在が明らかにされたのは、同年一一月、議会上院におけるモルモン指導者たちの証言によってである。

 スミスが、ダナイト団の設立やモルモン軍の行動にどの程度かかわっていたかが歴史家のあいだで長く議論されてきた。多くのモルモンの歴史家が、ジョセフとダナイト団やモルモン軍とのかかわりを否定してきた。彼らの主張では、ダナイト団の隊長アヴォードが極秘のうちに秘密部隊を組織したという。アヴォードは残忍な男であったから、自分の欲望を満たすためにダナイト団をつくったというのである。アヴォード自身は、議会上院にて、スミスこそがダナイト団を提案し、組織した中心的人物であると供述したが、今日、このアヴォードの証言が事実に近いことが明らかにされている。

 今日、スミスやリグダンが、ダナイト団画策のときから密接にかかわっていたことが知られている。ダナイト団は、モルモンの絶対的指導体制の確立のために組織された秘密結社であるから、スミスやリグダンがかかわっていなかったという主張はきわめて不自然である。また、スミスやリグダンがダナイト団やモルモン軍を用いて、コールドウェル郡における略奪や放火にかかわっていたことを示す証拠が多数発見されている。スミスはモルモン教徒を護るためにはこうした行動も必要であると考えていたのである。スミスも他の指導者たちも、異分子追放というようなダナイト団の活動を熟知していたし、承認も与えていた。指導者たちはダナイト団の活動を、共和党員には望ましくない市民を自らのコミュニティーから取り除く権利があるのだという論理で、正当化していた─逆に、モルモン教徒もまたこの論理によってミズーリー州から追放されることになるのである。

 ダナイト団のメンバーのなかに、後日、西部の殺し屋・ならず者として有名になるビル・ヒックマンとオリン・ポーター・ロックウェルがいたことに注意しておきたい。ロックウェルの家族とジョセフの家族とは昔からつき合いで、ロックウェルはジョセフの竹馬の友であり、その後ジョセフの影のボディー・ガードとして、ジョセフの無理な願いを聞きとどける便利で頼もしい味方となる男である。一八四二年五月、ミズーリー州知事リルバーン・ボッグズの暗殺未遂事件が起こるが、モルモン教徒の歴史家ハロルド・シンドラーの研究によれば、この事件はジョセフの命でロックウェルが手を下したものである。もう一人のビル・ヒックマンは「荒くれ男ビル」とよばれ、非道なことなら何でもござれという悪名高い無法者であるが、モルモンの指導者、とくにブリガム・ヤングのために数々の計画的犯罪に従事し、ヤングのお気に入りであった男である。ミズーリー時代には、ダナイト団の存在そのものが秘密であったから、この二人の人物は影としてしか存在しない。

(31)John Corrill, op. cit., p. 30      


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