高橋 弘 著 「素顔のモルモン教」


U モルモン教の歴史 − 歴史学にもとづくモルモン教の歴史
3 カートランド時代(1831-37)


 当時、どこへ行っても預言者と名のる者が少なくない時代で、オハイオにも預言者には事欠かなかったようである。ジョセフもその一人であるが、『モルモン経』の噂を聞きつけて遠くから見学にやって来る者もいた。ある時エズラ・ブース(Ezra Booth)というメソジストの説教師の一行が、腕の麻痺した婦人を連れてジョセフを訪れたが、話が信仰治癒におよんだとき、ブースはジョセフにむかってこの婦人を癒すことができるかと尋ねた。ジョセフは急に口を閉ざし、人々がこの話をほとんとど忘れかけた頃、やおらこの婦人にむかってキリストの名によって癒されるよう命令し、その部屋から退出した。人々はジョセフの自信に満ちた態度に驚嘆するとともに、たまたまこの婦人がその腕を動かすことができたことから、ブースは直ちにモルモン教会に加わったという。モルモン教に限らず、こういう類の話は山ほどある。迷信と魔術の時代は、奇跡や驚嘆するでき事に飢えていたのである。開拓時代の信仰のありようを彷彿させる一つのエピソードである。その後しばらく、ジョセフは信仰治癒に没頭したことがあるが、こんどは盲人も足萎えた者も癒されることはなく、失望した人々はモルモン教会から離れてしまったという。エズラ・ブースはその後、ジョセフの野卑な冗談に失望したことと、ジョセフの啓示がつねに現世利益、世俗的関心に由来していると確信するにいたり、モルモン教から去った。

 カートランドへ教会を移してから、ジョセフははじめて落ち着いて教会形成にうちこむようになった。カートランドにはリグダンが指導する財産共同体のコロニーがあったが、アメリカの歴史のなかで一八三〇、四〇年代ほど共産社会に憧れた時期はない。ロバート・オーエンが一八二五年、インディアナ州にニュー・ハーモニーという共産社会を作ったのは有名な話であるが、当時、全米にさまざまなコロニーが作られていた。


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