高橋 弘 著 「素顔のモルモン教」


U モルモン教の歴史 − はじめに


 モルモン教の歴史をめぐる二つの対立する見解がある。一つは「旧い歴史観」で、最初からジョセフ・スミスを預言者と信じ、スミスによって興された「モルモン教」を唯一正しいキリスト教と主張する立場であり、モルモン教の指導者やモルモン内部の一部の研究者によって支持されている歴史観である。これは「信仰」の立場を最優先させる歴史観であり、筆者はこれを文学、すなわち「物語」あるいは「説話」と考えている。

 もう一つは「新しい歴史観」で、今日の歴史学の方法をとりいれた研究である。宗教に関する研究であっても特定の立場から観ることをやめ、まず事実をそのまま事実として認め、その上で事実の解釈を試みようとする研究のあり方である。こういう新しい歴史研究は、外部の研究家や、モルモン教徒のなかでも比較的若い世代の研究家によってすすめられている。つまりモルモン教徒の研究家には、二種類のタイプの研究家が存在しているのである(V「モルモン内部の歴史論争」参照)。   

 説話や信仰のなかの人物と、歴史上の人物の間には越えがたいギャップがある。モルモン教の歴史をのべる場合、両方の主張をかたよりなく述べることは、たんに難しいということより、そもそも不可能なのである。文学と歴史学を同じ地平で語ることはできないからである。そこで本書では歴史学の立場から、最近の研究を参考にしつつ、できるだけ事実にもとづいたモルモン教の歴史を描いてみたいと思う。

 最初に、モルモン教会が伝えている説話による(伝説的)モルモン教の歴史を概観し、その後に新しい歴史観の立場から、主要な出来事をやや詳しくみていきたい。


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