高橋 弘 著 「素顔のモルモン教」


T 素顔のモルモン教 −11 指導者の収入


 モルモン教会はすべての男性信徒に神権を与えリーダーシップに参加させているが、すべての仕事は基本的には奉仕であり、無報酬である。しかし、一部の指導者(二〇〇人程度)については、全時間を奉仕に捧げているということから、教会から報酬を得ている。今日、モルモン教の指導者がどのくらいの報酬や年収を得ているかは極秘である。そこで旧い記録から、かつての指導者たちの報酬を調べ、参考にしてみたいと思う。

 新天地に入植し開拓をする際、投資のための資金をもつ者が金持ちになる可能性が高かったことは当然であった。モルモン教徒であり、かつ著名な歴史家レナード・アリントンの研究では、ユタ定住後、ブリガム・ヤングや他の指導者たちは必要に応じて信徒の捧げた献金を投資のために用いていたが、後日、金を返却するさい利子を払った形跡がないという。そればかりでなく、いつでも教会の資金を自由に用いることが可能であったという事実が、ブリガム・ヤングや他の指導者たちのこの世的成功に大きく貢献したことは間違いない、とアリントンはいう。指導者たちが教会の資金を流用することぜ、その後のモルモン教会の伝統となる。

 ブリガム・ヤングの場合、教会の資金やソルト・レーク市の会計を自由に用いて、ユタ入植当時から相当な収入を得ていた。モルモン教徒である歴史家ヒルションの研究では、一八六〇年代(ユタ入植から十数年後)のヤングの年収は平均すると三万二〇〇〇ドルであり、一八七〇年の国勢調査には、ヤング個人の資産総額は一〇万二〇〇〇ドル、ヤングの不動産の評価額は一〇一万六〇〇ドルであった。開拓地のモルモン教徒の平均年収が一五〇ドルを上回らなかった頃、ヤング個人はその二〇〇倍もの収入を得ていたのである。

 著名なジャーナリスト・ヒューバート・バンクロフトの調査では、ワシントンの国税庁の記録では、ヤングの年収は、一八七〇年が二万五五〇〇ドル、一八七一年が一一万一六八〇ドル、一八七二年は三万九九五二ドルとなっているそうである。ヤングは、ソルト・レーク市の最も高価な土地をほとんど入手し、見渡す限りの山々とその家畜を入手し、可能な限りのビジネスに手を出していたのである。歴史家ヒルションは次のように述べる。ブリガム・ヤングは、「ユタにおいて、さらに多くの妻と、さらに多くの改宗者と、さらに大きの権力を要求した。神の名とモルモン教会の名において、ヤングは大盆地(ユタ州)を彼個人の所有物としたのである」。

 ブリガム・ヤングは、その後に続く指導者たちの模範となった。モルモン教会の指導者たちは、物質的成功をも手に入れるのである。二十世紀になってから、連邦政府上院における多妻婚にかんする聴聞会が開かれたが、その際、モルモンの指導者やモルモン教徒が参考人として召喚され、証言台にたたされた。その膨大な記録の中に、当時の大管長ジョセフ・F・スミスの興味深い証言がある。上院議員の質問に答えるための大管長スミス自身の証言では、彼は次の会社・企業と関わりがあったのである。これを発言順に並べると[( )は役職である]、以下の通りである。

 シオン商業会社(社長)、ユタ州立銀行(頭取)、シオン・セイビングズ銀行(頭取)、ユタ砂糖会社(社長)、ワゴン及び機械会社(社長)、ユタ電力会社(社長及び会長)、ソルト・レーク及びロサンゼルス鉄道会社(社長及び会長)、ソルト・エアー・ビーチ会社(社長)、アイダホ砂糖会社(社長)、インランド製塩会社(社長)、ソルト・レーク劇団(社長及び会長)、ソルト・レーク編物会社(社長及び会長)、ユニオン・パシフィック鉄道会社(会長)、ブリオン・ベック及びチャンピオン鉱山会社(副社長)、デザレット・ニューズ新聞社(会長)。

 面白いことに証言台のスミスは、会社が多すぎたためか、すべての名前を思いだすことができなかったのである。以上、大管長ジョセフ・F・スミスは一五にのぼる大会社・企業・銀行の一九もの要職にあったわけで、彼個人の収入はおそらく、われわれの想像をはるかに超えるものであったことは間違いない。スミスはもちろん、モルモン教会から大管長として充分な収入を得ていたのである。重要な点は、モルモン教会の大管長がこのようなビジネスに関係していることも、そこから巨額の収入を得ていることも、一般信徒には極秘にされていたことである。今日でもヤング以来の伝統に従い、モルモン教会のトップの指導者たちは様々なビジネスにかかわっているが、彼らの報酬額が公にされたことは一度としてないから、現在のモルモン教の指導者たちの収入については、想像する他はないのである。

 モルモン教の歴史をたどれば、平均的なモルモン教徒がつつましい生活を送る中、歴代の指導者たちは確実に裕福になっていくのである。モルモン教会の指導者たちが、この世的な成功を収めたり、金持ちになることにたいして躊躇や罪悪感のようなものがみられないのは、モルモン教の「福音」に原因がある。ジョセフ・スミスの「福音」はこの世での幸福、つまり金儲けやビジネスにおける成功を神の祝福とみなすからである。モルモン教の教えの中には「貧しいものは幸いである・・・」という福音はない。なぜならモルモン教の福音は幸福主義だからである。つまり、モルモン教の幸福主義はアメリカ的であり、その根拠はモルモン教の「神」理解にある。


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