毎日新聞(大阪版)8月21日の記事(1)

一面のトップ記事でモルモンの来日を紹介しています。

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毎日新聞記事はかなりモルモン教について詳しく、シビアに伝えています。冒頭一夫多妻の教義を取り上げていますが、同紙の記事に先立って時事新報が「モルモンが来たのをきっかけに我が国も妾を囲う習慣を止めよう」と呼びかけたようです。それに肯定しつつも正妻を何人も持つモルモンは妾を囲う習慣のある我が国でもバカバカしく見えるだろうと断じています。道徳的に我が日本国はモルモン教徒より上であると言う論調です。
第二次大戦前までモルモン教が全くといっていいほど伝道の成果を上げれなかったのは、こうした道徳的に日本はモルモン教徒よりも優れているという自信があったからではないかと、私は思うところがあります。

さて、記事はこれに続けて、モルモンに大きな宗派として二派あることや、モルモン書の由来をソロモン・スポルデングの著作であること、ジョセフが啓示を受けたとして人を騙していたことなどを紹介しています。恐らくは外国語新聞記事を参照したのでしょうが、現在より遥かに情報の乏しかった時代にこれらを知っているとは驚きです。

いささか新宗教に対して蔑視的な発言がありますが、末尾の「人民中の先覚者は、宜しく一方において大いに学術の知識普及に努め、怪し気なる信仰をして健全なる常識の前に煙散霧消せしむるの工夫なかるべからず」(民衆の中の先覚者は学術的知識を世に広めて、怪しげな信仰を、健全な常識の前で跡形もなく消滅させる努力をすべきだ」とは現代にも通じる重いメッセージだと思えました。

亦何ぞ妨げん

日本人にして早く蓄妾(しょうちく)の過を改め一夫一婦の正道を守らざらんか。彼のモルモン宗の宣教師らはその教を布くの好田地(こうでんち)として或は日本に渡来すべしとは、極力蓄妾に反対する時事新報の注意なりしかと覚ゆ。然るに今やそのモルモン宗がいよいよ日本に教を広むるの覚悟にて、四人の教師を派し、先日既に横浜に来着したりとのことにて、横浜の外字新聞を始め東京大阪等の新聞紙にも種々これに対する議論を見受くることとなれり。就中(なかんづく)ジャパンメールの如きは一夫一婦をもって国法とする日本政府は、宜(よろ)しく憲法によりこの有害なる宗教の伝道を禁ずべしといへり、而して追々(おいおい)比論(このろん)に賛成するもあるやうなれども吾輩は全く見るところを異にし、モルモン宗の布教も敢て禁ずるに及ばずと思へり。
抑(そもそも)もモルモン宗に二派あり。一は開山第二世ブリガムヤングの派にして、宗祖スミスを以て一夫多妻を許し又自からこれを実行したるものとし、一夫多妻の本意なる旨を説く。而してこれに反対の一派は、スミスの遺子を教主と仰ぐものにして、ヤングをもって宗祖を誤るものとし、一夫一婦こそその宗の本意なれと唱ふ。今我国に来れる宣教師らは前者即ちヤングの流を酌(く)むソルトレーキ派に属するものにして、一夫多妻宗たること勿論なり。然れども比派も近来は米国政府の命令により公然一夫多妻は放擲(ほうてき)する旨宣言したるものなれば、日本においても国法を破るを敢てするの気遣ひなく、亦我国古来の習慣も妾こそ置け、一夫にして数人の正妻を迎ゆるごとき馬鹿々々しき振舞を許さず。モルモン宗一派の豈(あに)よくこれを動かすを得んや。
されば一夫多妻の方面においてはモルモン宗決して恐るるに足らず。将又(はたまた)その宗旨の本体たる耶蘇教は既に広く日本にも行われて多数の宗派あるのみならず、中には露西亜皇帝をもって信仰の統率者とするニコライ派の如きものさへあれど、これがために何等差閂(なんらさしつかえ)を生ずることなし、畢竟日本人の度量寛大にして、妙に気嫌いすることなきに因れり。モルモンの一派何ぞ独り比例(このれい)に洩れんや。或はいふ、モルモンの宗旨は耶蘇教の一派なれども、宗祖スミスが奇跡によりて得たりと称するモルモンの経典は、説教師スポールヂングの空想に成りしものにして妄誕無稽毫(もうたんむけいごう)も取るに足らず。而して彼が屡々(しばしば)神告に托して人を欺き、自己の欲望を達せんとしたる猾手段(かつしゅだん)は、苟(いやしく)も常識を備ふるもの、挙(こぞ)って認むるところ、即ちその教徒が屡々居所(きょしょ)を逐(お)はれスミスの如きは獄中に変死を遂ぐるに至りし所以にして、宗教としての価値あることなく、正しく所謂淫祠(いわゆるいんし)の類なれば、政府は宜しく検めその布教を禁じ害毒を未萌(みぼう)に防ぐべしと。吾輩も亦モルモン宗の妄誕無稽を認めむ。然れども宗教に妄誕無稽の談あるは、モルモン宗に限らずその他の耶蘇教、および仏教神道の中にも随分抱腹の奇談少なからず。唯これを信ずるものに取りて非常に有がたき感あるのみ。要するにこの論はモルモン宗を高く買ひ過ぎたるものなり。いま世間に行はるる種々の浅薄なる宗旨と同一視し、愚夫愚婦の輩をしてこれを弄ぶしむるにおいて更に何の差し支えあらんや。
メール記者は英人なり。而して英国は其実真先(そのじつまっさき)にモルモン宗の布教師より見舞はれたる国にして今尚ほその教会あり。その他モルモンの信徒は瑞典諾威嗹馬佛蘭西独逸墺太利(ス井ーデン・ノールウエー・デンマーク・フランス・ドイツ・オーストリー)等の新旧耶蘇教国到るところにあり。米国の如きは頑固なる耶蘇教国にてありながら耶蘇を非認する猶太教の教会さへも中々盛んなり。日本は憲法上信教の自由を認む。苟も治安を害せざる限りは、仏教も可なり。耶蘇教も可なり。愚民の間には蓮門教(れんもんきょう)も天理教もあるべし。モルモン宗の来る亦何ぞ妨げん。然れども浅薄なる宗教の行はるるは決して一国の慶事にあらず。政府は素より人民中の先覚者は、宜しく一方において大いに学術の知識普及に努め、怪し気なる信仰をして健全なる常識の前に煙散霧消(えんさんむしょう)せしむるの工夫なかるべからず。是れ我輩の希望なり。

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