ヒエログリフの実際
古代エジプト文字(ヒエログリフ)は一文字一文字が比喩的で象徴的な性格を持つものであるとの考えが古典古代からあったのです。これには新プラトン主義者の神秘論的思想と結びついてヨーロッパのヒエログリフ観の根底でした。
こうしたいわば先入観がヒエログリフ解読の大きな妨げになったのです。
実際はどうなのでしょうか?シャンポリオンの解読以来ヒエログリフはそのほとんどが表音文字である事が解っています。ヒエログリフは象形文字であってもそれがかたどった対象とその文字が表す意味とが異なる場合が多いのです。そして、対象と意味が一致する場合は「表意文字」として表されるのです。はやい話が漢字の少ない日本語の文章を想像すれば良いのです。
ところが、ウリムとトンミムなる解訳器を持つ、末日の予言者ジョセフ・スミスもこの前時代の先入観に縛られていたのです。
モルモン書の原典であるニーファイが作った「金版」は枚数に制限があるとのことで彼らが使いなれていたヘブライ語を使わず敢えてエジプト文字に翻訳して書いているのです。つまり、ヒエログリフはヘブライ文字よりも少ないスペースに多くの情報が盛り込めるという大前提があるのです。
表意文字をほとんど含まないヒエログリフにそのような省スペースが可能なのでしょうか?
ここで実例を挙げましょう。おなじみ(?)の死者の書です。呪文6と呼ばれる箇所です。
死者の書 呪文6 あの世で,ウシェプテイを人のために働かせる呪文。Nの言葉。彼は言う。「おお,
Nに割り当てられたウシェプティよ。もし私が呼び出され,もし私が,あの世でしな
くてはならないどんな仕事にでも割り当てられたら,その時は,そこで,お前に対し
て,義務に向かう者として,面倒なことが投げつけられるのだが,そうしたらどんな
時にでも畑を耕し,岸辺に水を引き,東の砂を西へ運ぶために,私のかわりにお前を
(その仕事に)割り当てよ。『私はここに居る』とそこで答えよ。」
|
古代エジプト人の来世観では死者はあの世でも労働をしなければならないのです、ここで「ウシェブティ」というのは一種の身代わりの人形で、来世で労働の割り当てがあった折にはこの「ウシェブティ」に代行させるための呪文なのです。
見比べてどうでしょう。しっかり絵として表現して書いて(描いて)いくとかなりスペースが必要である事がわかっていただけると思います。
わざわざ母国語を不慣れな外国語に翻訳する必要があるのでしょうか。むしろアルファベット化していて記述が簡単なヘブライ文字を詰めて書き込んだ方が有効なのは言うまでもありません。そして最大の利点は固有名詞・宗教神学用語などを異教徒の文字にわざわざ変換する手間が不要という事なのです。
金版にはイザヤ書をはじめとするヘブライ語の諸文が含まれていますが、それらも全てエジプト語にわざわざ翻訳されて載せられているのです。結局そんな無駄をするなら最初からヘブライ語で書けば良かったのです。
|
→ |
|
→ |
|
ヒエログリフ |
初期へブル語 |
ローマ文字 |
こうして考えていくと結局、金版にヒエログリフをもちいる理由は見出せません。 その重さの問題も含めて金板物語はジョセフ・スミスの捏造であると断言できます。